Hatch Technology NAGOYAの課題提示型支援事業では、現在8つの実証プロジェクトが進行中です。今回は、その中から「美しい緑を未来へ!持続可能な芝生ソリューション」についてお伝えします。
実証背景
名古屋を代表するシンボルの一つであるヒサヤオオドオリパーク、その中でも芝生広場(シバフヒロバ)においては、多くのイベントが開催され、市民の憩いの場として賑わいを見せています。このような賑わいは、都市活力をもたらす重要な要素となっています。
一方で、こうした利用の裏側では、芝生は人の踏圧(踏む圧力)や設置物、天候などによって日常的にダメージを受けており、維持管理に課題が生じています。これまで芝生の管理は、担当者の長年の経験や勘に大きく依存しており、芝生の健康状態を定量的に把握することが困難でした。そのため、原因も含めて科学的根拠に基づいた対策の立案が難しいという状況です。
この課題を解決するため、住宅都市局 都心まちづくり課とイクスアール株式会社がタッグを組み、先進技術を活用した実証プロジェクト「美しい緑を未来へ!持続可能な芝生ソリューション」がスタートしました。
本プロジェクトでは、AIとAR(拡張現実)技術を活用し、芝生の健康状態を可視化する『デジタル健康マップ』の作成を目指します。このマップは、踏圧回数や日照条件といった芝生の健康に関わるデータを、約3m四方の区画ごとに計測し、ヒートマップとして表示するものです。賑わいを持続させるためにも、データに基づいた効率的な管理を「デジタル健康マップ」で実現し、芝生の健康を維持・向上させることを目指します。

造園のプロが期待する「数値化」の力
9月16日に行われた打ち合わせには、都心まちづくり課、イクスアール株式会社に加え、フィールド管理者である三井不動産株式会社、芝生を実際に管理する岩間造園株式会社の担当者が参加しました。

この構想では、既存の監視カメラ映像をAIで解析することで、芝生への負荷となる踏圧回数を自動で推定・データ化します。
さらに、一般公開されている地理空間情報(PLATEAUオープンデータ※1など)も活用し、芝生の健康状態に影響を与える日照条件を予測するためのシミュレーション環境を構築します。
最終的には、これらのデータをもとに、シバフヒロバの各地点における踏圧回数や日照量を色分けして可視化するヒートマップ(デジタル健康マップ)を作成し、Webアプリケーション上で関係者が確認できる環境を整えます。これにより、データに基づいた効率的な手入れや、イベント開催時にダメージの大きいエリアを集中保護するなど、予防的な管理が可能になると考えています。

これに対し、「芝生の損傷の主な原因は踏圧ではないかと考えているが、数値化できれば管理者として非常に分かりやすい」「イベント開催時の人々の動線がデータで見えると、特に注意すべき場所を特定しやすくなる」など、現場の具体的な期待が寄せられました。
一方で、「ダメージを把握できたとしても、イベント計画はすぐに変更できない」といった声もあり、データを実用的な形でどう活用していくか、現場の声に耳を傾けながら検討する重要性も改めて認識されました。

芝生管理の新しい可能性
この実証では、現場の経験則を、データによって科学的に検証できる点に大きな意義があります。現場の知恵と先進技術の融合によって、芝生の高品質な管理を実現する新しいモデルの構築を目指します。
イクスアールの蟹江さんからは、次のように意気込みを語っていただきました。
「私たちの最終目標は、屋内・屋外をシームレスに繋ぎ、あらゆるモノや空間の情報を誰もが直感的に引き出せる「視覚のデジタルツイン」を構築することです。このプロジェクトは、その壮大なビジョンの実現に向けた、不可欠な一歩と位置づけております。」
この日は、顔合わせと並行して、実証に用いる既存の監視カメラの画角確認や、実証システムのデータ取得環境の準備を行いました。今後は、監視カメラ映像のAI解析を進め、芝生への負荷となる踏圧回数を自動で推定・データ化し「デジタル健康マップ」への可視化の基礎固めを完了させる予定です。

「デジタル健康マップ」の実現に向け、引き続きプロジェクトは全力で進んでまいります。
Hatch Technology NAGOYAのページでは、各実証プロジェクトの様子を発信していきます。FacebookやXでお知らせしていきますので、フォローよろしくお願いします。
※1 PLATEAUオープンデータ: 国土交通省が主導する、日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクトのオープンデータ。



