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AIを活用した区画線の劣化診断で、道路の安全性向上に挑む【実証レポート】

近年、先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)技術の普及により、車線を明確に示す区画線の重要性がますます高まっています。名古屋市では、約6,600kmの道路に設置された区画線の劣化状況を定期的にパトロールし、必要に応じて修繕を行っています。しかし、従来の点検方法は目視に頼る部分が多く、効率性や正確性の向上が課題でした。

この課題を解決するため、名古屋市は株式会社スマートシティ技術研究所およびニチレキ株式会社と連携し、最先端のAI技術を活用した区画線の劣化診断に関する実証実験を実施しました。

最新技術を活用した道路点検

本実証実験では、株式会社スマートシティ技術研究所とニチレキ株式会社が開発した「GLOCAL-EYEZ(グローカルアイズ)」を使用。このシステムでは独自技術を用いることにより、スマートフォン1台で撮影するだけで、区画線をはじめ、ひび割れ、ガードレールの変形、標識の視認性など、道路上のさまざまな構造物の状態をAIが解析します。すでに10カ国以上で特許が出願されており、世界的にも注目されています。

こうした技術の活用に加え、今回の実証では以下の3つの技術を新たに開発・検証しました。

1. 路面標示の劣化度を数値化する技術

スマートフォンで撮影した前方画像を解析し、区画線、停止線、横断歩道、矢印表示など15種類の路面標示の剥離や摩耗を自動検知。さらに、劣化レベルや長さの算出機能により、目視点検と比べて精度と効率を向上させることができます。また、地図データやExcel形式での出力にも対応しており、自治体の維持管理計画に活用できます。

本プロジェクトでは、複数車線を同時に点検するための広角撮影および広角画像に対するAIモデルを新たに開発。従来の一般画像と比べ、隣接車線への検知精度が向上し、多車線が多い名古屋の道路環境でもより効率的な点検作業が可能となりました。

▲名古屋市プレスリリース(https://www.city.nagoya.jp/keizai/page/0000183548.html)より

2. 鳥瞰変換と鳥瞰図解析技術

スマートフォンで撮影した前方画像を鳥瞰画像(真上から見た画像)に変換し、区画線の延長や剥離率を高精度で測定する技術です。従来の前方画像では捉えきれなかった区画線の形状や面積を、定量的に把握できるようになりました。

当初、影をかすれとして誤検知する課題がありましたが、影とかすれの判別を強化するために教師データを改良。その結果、影の影響を抑えつつ、より正確な剥離率の算出が可能となりました。実際に、人が撮影・診断した結果と比較したところ、AIは90%以上の精度で区画線のかすれ度合いを正確に把握できることが確認されました。

▲名古屋市プレスリリース(https://www.city.nagoya.jp/keizai/page/0000183548.html)より

3. 正常な区画線を収集・記録する技術

これまでのAI技術は劣化検知が中心でしたが、新たに正常な区画線も検知し、延長を算出するAIを開発。区画線(実線)、区画線(破線)、矢印、横断歩道、停止線、導流帯、文字、自転車マークの8種類の路面標示を正確に検知できるか実証を行いました。

また、この技術を1や2のかすれ検知技術と組み合わせることで、精度がさらに向上することがわかりました。従来のAIでは、「標示がかすれていない場所」と「標示が存在しない場所」をどちらも「かすれなし」と誤認するケースがありましたが、正常箇所の検出技術を加えることで、標示がない区間との区別が可能に。逆に、劣化が激しい箇所を「標示なし」と誤判定する課題も解決できるようになりました。

▲名古屋市プレスリリース(https://www.city.nagoya.jp/keizai/page/0000183548.html)より

現地見学会の様子

2月19日には名古屋市役所本庁舎にて、メディア向けの現地見学会を実施。当日は、プロジェクトの概要説明の後、実際にパトロールカーでの試験走行を行いました。

質疑応答では「区画線のかすれ具合によって自動車のレーン認識にどのような影響が出るのか。どの程度の劣化で運転支援システムに支障が出るのか把握できているか」といった質問が挙がりました。

ほかにも、通学路や事故多発地点のデータと組み合わせることで補修の優先順位付けが可能になる点や、物流車両など民間の車両と連携する可能性など次々と質問が挙がり、実証実験への関心の高さが伺えました。

今後の展望

今回の実証実験を通じて、AI技術を活用した区画線の劣化診断が高精度で実現可能であることが確認されました。今後は、さらなる精度向上を図るとともに、他の道路標示や構造物の劣化診断への応用も想定されています。

引き続き自治体と企業が連携し、持続可能な道路インフラ維持管理の実現を目指して技術開発を進めていきます。

なお、当日の様子は建通新聞にも掲載いただきました。下記もあわせてご覧ください。

名市 自動運転時代は区画線も重要インフラ