【実証レポート】ベテランの技術を継承したい!南部市場及びと畜場のスマートファクトリー化

実施者

(1)実証事業者 イクスアール株式会社
(2)市担当部署 経済局中央卸売市場南部市場管理課

プロジェクトの概要

 南部市場では、全国から出荷される生きた牛や豚を「と畜解体」し、小売業者などへの販売を行っており、毎年約20万頭、重量にして19,000トンもの牛豚を出荷しています。

 日々安定した出荷を行うため、特殊な設備の維持・点検や不具合対応等の業務を、専門的な技術を持つ技能職員たちが担っています。しかしながら、技能職員の高齢化が進む中、彼らの持つ専門的な技術の承継が大きな課題となっています。

 今回の社会実証では、熟練の技能職員のノウハウの技術伝承という課題解決に向けて、AR技術を活用したアプローチで解決すべく、以下の内容を検証しました。
※ARとは:Augmented Realityの略で拡張現実と訳されます。バーチャルな情報を現実の視野に重ねて表示することで、現実を拡張する技術です。

検証ポイント

AR技術を活用した動画マニュアルの導入により、経験年数の浅い職員でも機械の操作やメンテナンスを行うことができるかを検証しました。

実証で活用するソリューション「ARマニュアル」

 ARマニュアルは、ARグラス(Microsoft HoloLens 2)を使用することで、現実の視界に重ねて、動画や文章で操作手順や作業上の注意点が表示されるものです。ARグラスはゴーグル型のため、両手で機械を操作することができ、大量の紙のマニュアルを持ち歩く必要もありません。

 加えて、ARグラスには撮影機能も備わっており、熟練の技能職員の故障対応の様子などを記録することができます。

実証プロジェクトのプロセス

 今回の実証プロジェクトでは、南部市場において頻繁に行われている作業のひとつである「豚の背割り機の刃の交換」と「牛のと畜ラインの点検」という作業工程について、ARマニュアルの作成対象としました。

 ARマニュアルの作成にあたっては、素材を一から集める必要がありました。湿度が高く厳しい環境下での撮影は困難でしたし、さらに、技能職員の作業工程が想像以上に多く、マニュアル化の作業も膨大になるなど、幾多の困難を乗り越えて、ようやくARマニュアルが完成しました。

 2月中旬に、南部市場の現場において、経験の浅い職員がARマニュアルを使用しながら作業ができるかの検証を行いました。実際に職員がARグラスを装着して作業を行ったところ、工程を漏らすことなく、着実に機械を操作することができました。

点検前にマニュアルを確認する様子
牛のと畜ラインを点検する様子

 装着したまま場内を動く際、視野が狭くなることやヘルメットとの併用が難しく、安全性の確保に課題が残りました。すぐに導入することは難しそうですが、課題が解消されれば導入の可能性も広がりそうです。